熱狂を生んだ D2C ブームとは、なんだったのか? 最前線を走り続けた当事者が語る D2C の光と影

日本のファッション EC 業界の歴史を、当事者たちの証言で記録していく『 あんときの EC 年代記 』。今回フォーカスするのは、SNS やデジタルマーケティングの台頭を背景に 2010 年代頃から急増した D2C( ダイレクト・トゥ・コンシューマー )ブームの時代。Warby Parker( ワービーパーカー )や Allbirds( オールバーズ )といったアメリカ発の D2C ブランドの成功を受けて日本にも波及したこの潮流は、ファッション EC の世界に何をもたらし、そして何を残したのでしょうか?

お話をお聞きしたのは、株式会社 Bricolage & Lo 代表取締役 の吉岡芳明さん。サイバーエージェントグループでのウェブビジネスの経験を積んだのち、結婚指輪ブランド「 iwaigami 」やスキン&マインドケアブランド「 SENN 」、フレグランスブランド「 PERS 」といった D2C ブランドのディレクターとして立ち上げから運営まで携わってきました。

そんな D2C ブームの黎明期から最前線に立ち、自ら D2C ブランドの立ち上げにも挑戦してきた吉岡さんに、今だからこそ語れる D2C ブームの本質と、その光と影を赤裸々に語ってもらいました!

吉岡 芳明
株式会社 Bricolage&Lo 代表取締役 / ブランディングディレクター

 

サイバーエージェントグループで新規事業を担当後、2016 年から戦略パートナーの立場で数多くの D2C ブランドをサポートする一方、2017 年にスマイルズらと合弁会社「 二重 」を設立し、結婚指輪ブランド「 iwaigami 」、2020 年には「 Less is Beauty 」をコンセプトに掲げたスキン&マインドケアブランド「 SENN 」を立ち上げるなど、支援者と当事者の両方の立場から D2C ブームの最前線を走り続ける。

2025 年 12 月に株式会社 Bricolage & Lo を設立し、フレグランスブランド「 PERS( パース )」を始動。アパレル、コスメ、フード、ジュエリーなど多様な業界にわたるブランディング支援も継続して手がけている

D2C はどこから来たのか? D2C 誕生の背景と第1世代・第2世代による売り方の違い

吉岡

まず最初に自分のハードルをグッと下げておきますと ( 笑)

今日、僕がお話できるのは D2C 実践者としての主観的なお話になります。D2C の歴史や体系を知りたい方は CEREAL TALK さんをご覧ください ( 笑 )

示唆に富んだ話が喋れるコメンテーターでもなければ、D2C ブランドで大きな成功を収めた経営者でもなくて、今も自分でブランドを運営している単なる実践者です。

実践者として自分の目で見てきたことを、僕目線でお話できたらと思っています

編集部

さっそくですが、今日は D2C をテーマにお話を聞かせていただければと思います。D2C はまずアメリカで火がついて、それが日本にも広まっていったというのが大きな流れですよね。

当時、あれほどの熱狂を生んだ背景には、それが単に新しい商売のやり方だったというだけではなく、それまでの古いビジネスのあり方を否定したりとか、逆に新しい価値観を提示したりとか、カウンターカルチャー的な側面があったように感じるのですが、吉岡さんから見て、D2C が生まれた背景には、どんなものがあったと感じていますか?

吉岡

そうですね。アメリカから始まったという認識は、そのとおりだと思います。僕自身は、もともとサイバーエージェントグループにいて、2005、6年頃からずっとウェブビジネスに携わっていて、リテールとか、物を売る商売にはまったく関わってこなかったんです。でも、ウェブの世界では、無料でお客さんを集めて、広告や課金で収益を得るフリーミアムといった、いろんなビジネスモデルが次々と生まれていて、既存の業界をデジタルがどんどん上書きしていくのを目撃してきていたんですよね

編集部

そうした光景がリテールの世界でも見られるようになると?

吉岡

ええ。この流れはリアルなビジネスにも訪れるだろうと考えました。そこで、2010 年にサイバーエージェントグループからアパレル系のデジタル支援会社へ転職したんです。でも、そこですごい衝撃を受けることになって。というのも、この頃には ZOZO はすでに上場していて、世の中的にも EC の認知がそれなりに進んでいるだろうと思っていたんですが、有名なアパレルブランドでも EC 部署を1人や2人で回しているくらいの遅れた状況でした。

ユナイテッドアローズさんやビームスさんクラスになると、ある程度しっかり取り組んでいる印象でしたが、その下くらいのブランドさんはまだまだで、そもそもオンラインで物を売ることに懐疑的な空気すらあった。

一方でウェブの世界では、たとえば、ソーシャルゲームの新興企業が昔ながらの老舗ゲーム会社を圧倒するみたいなゲームチェンジを何度も目撃していたので、リテールって全然変わっていないんだなと。でも、その分、変わるチャンスはすごいあるんだろうなと感じていました

編集部

ウェブ側から見ると、リテールの遅れはかえってチャンスに映っていたんですね

吉岡

そうしたなかで、アメリカでウェブサイトを中心にブランドをつくるという動きが活発になっているという情報をキャッチしました。この頃には、すでに D2C の第2世代が誕生していて、ブランドでいうと、Warby Parker ( ワービーパーカー ) や Everlane ( エバーレーン ) が注目を集めていました。僕が最初に D2C を知ったのはこの頃です

編集部

野田さんは当時、DURAS ( デュラス ) で EC 責任者をされていたと思いますが、D2C が出てきたときには、どんなふうに見ていたんですか?

野田

「 先人たちがやっていたことをパッケージ変えて出してきたな 」ぐらいの印象かな(笑)

吉岡

いや、実際に本当はそうなんですよね(笑)

野田

ウェブでブランドをやっていた人たちは、同じようなことをずっと前からやっていたわけだし、そもそもギャルブランドって色々早かったので、中間流通をなくして適正価格でダイレクトにお客さんと繋がるのが D2C の強み! 新しい! 的なことをウリにしてたけど。え、とっくにみんなやってない? と(笑)。

ま、それがブランドという物を作る側にいた人の視点だと思っていて、作ったことがないマーケ側にいた畑違いの人の視点では、さも革命のように映ったんだろうね

編集部

当時のなんとなくのイメージでは、ウェブでブランドをやることを D2C と解釈していたような雰囲気もありましたよね

吉岡

そうなんですよ。D2C って本来「 ダイレクト・トゥ・コンシューマー 」なんですけど、「 デジタル・トゥー・コンシューマー 」と言われたりもして。デジタルから始まらないと D2C じゃないみたいに勘違いされるくらい、デジタル発のブランドのことを D2C と呼ぶきらいはありましたよね

野田

たしかに、そっちの文脈の方が強かったですよね

吉岡

めちゃくちゃ強かった。でも趣旨としては、ダイレクトにお客さんとつながることがメイン。ウェブによってそれができるようになりましたというのが画期的だったわけです

編集部

でも実際は、野田さんがさっきおっしゃったように、D2C という言葉が生まれる前から、ウェブ上でブランドを立ち上げて直販するというモデルは存在していたわけですよね?

野田

あったよね。夢展望さんのようなプチプラ通販とか

吉岡

ギャル系のブランドに多かったですよね

野田

ただ、服をつくるハードルが下がって誰でも服をつくれる時代にはなったけど、ブランディングや出店ハードルは依然として高かったので、自分たちはウェブから売りますという、いわば必要に迫られた選択だったよね

編集部

ワービーパーカーのような成功事例とはだいぶ違う文脈ですね

吉岡

全然違いますよね。それとワービーパーカーって、SNS の使い方も上手でしたし、それ以前にブランディングが完璧に構築されていましたよね。図書館をイメージした内装だったり、自社出版の絵本をつくったり、ニューヨーク公共図書館でプロモーションを仕掛けるなどのいわゆる ” 世界観 ” をしっかり構築していたブランドでした。さらに、ドネーションなどのエシカルな活動を当初から実施していたので、ミレニアルズブランドの代表格になっていましたよね。

このあたりは Derris( デリス )というブランディングエージェンシーが支援していると聞いており、デリスはエバーレーンや Glossier( グロッシアー )といった D2C ブランドも担当しています。ワービーパーカー以降の、Allbirds ( オールバーズ ) とか Away ( アウェイ ) といった D2C の第2世代は特に顕著で、SNS で世界観を構築しながら、Meta 広告などでブランドをグロースさせていくのが特徴だったと思いますね

編集部

D2C にも世代があるんですね。ちなみに第1世代とは何が違ったんですか?

吉岡

第1世代は、’00年代の後期に生まれた Bonobos ( ボノボス ) とかのブランドになると思うんですけど、この世代の売りは、もう価格合理性なんですよ。「 私たちはミドルマンを外しているから、10万円の価値の商品を6万5000円で売れます 」というのがセールストーク。中間流通を省いてダイレクトにコンシューマーとつながっているからこの価格なんですっていう訴求の仕方でした

編集部

日本に D2C という言葉が入ってきたのはいつ頃なんですか?

吉岡

日本で初めて D2C という言葉が出てきたのは、2013年ぐらいと言われています。僕は 2015 年にこの界隈で初めて D2C のトークイベントをやったんですが、そのときには 200人ぐらいのお客さんが集まるくらい注目されていました。今ではもう D2C の重鎮と目されている objcts.io の沼田雄二朗さんや、その当時アメリカでマテリアルワールドを起業された矢野莉恵さんなんかに登壇してもらいました

野田

アメリカの情報を持っている人が中心となって日本のシーンを引っ張っていましたよね

編集部

ちなみに吉岡さん自身が、D2C に可能性を感じたのはいつ頃だったのですか?

吉岡

先ほども少しお話ししましたが、僕は D2C という言葉が出てくる前から、リテールってシェイプアップできる部分がいっぱいあるなとは、ずっと感じていました。だから沼田さんから D2C ってキーワードがあるんだよって聞いたときも、最初は野田さんと同じで「 いや、そのモデルってすでにあるじゃん 」と思ったんです(笑)。

でも、D2C についてどんどん知っていくと、SNS をどう使うかとか、顧客との接点をどう設計するかとか、ちゃんとした作法があって、1つのビジネスモデルとして仕上がっているんだなと感じるようになり、これは「 日本でも絶対に来るな 」と確信し、自分もこの波に乗ろうと思ったのが 2015 年頃ですね。

この頃からワービーパーカーの調査記事を書いて NewsPicks でバズったりして、D2C 関連で雑誌に取材されたり、イベントに登壇する機会が増えていきました

 

野田

側から見ていて、「 吉岡さん、上手く乗ったな〜 」と思ってましたよ(笑)

VC が夢を見て、パッションの人が物語を求めた。D2C はなぜあれほどの熱狂を生んだのか

編集部

ちなみに吉岡さん自身は、D2C ブームの真っ只中、周囲の空気感をどんなふうに見ていましたか?

吉岡

D2C への熱狂がピークを迎えたのは、2020年12月に佐々木康裕さんが書いた『 D2C 「 世界観 」と「 テクノロジー 」で勝つブランド戦略 』( NewsPicks パブリッシング ) という本が出たタイミングだと思います。この本が出た直後にコロナ禍になったこともあって、オンラインで売らざるを得ない状況になったことも拍車をかけました。D2C ブランドへの投資が活発になって、VC からもどんどんお金が流れていきました

編集部

投資家たちは D2C のどこに期待していたんでしょうか?

吉岡

マーケットサイズがまだまだ大きかったからだと思います。D2C でリテールの大手企業を倒せるんじゃないかという絵が描けた。ちょうどソーシャルゲームの新興企業が昔ながらの老舗ゲーム会社を圧倒するみたいな文脈で、D2C が既存の大手ファッションブランドを置き換えるという理屈を業界外の人間は信じたわけです

編集部

野田さんはその D2C ブームの盛り上がりを、どんなふうに見ていましたか?

野田

本当に申し訳ないけど、僕は「 若かりし頃に通ってこなければならない、服や音楽や遊びといったイニシエーションを受けずにここまできてしまった門外漢たちが、その遅れを取り戻そうと、今からでもできるマーケティングという手法でその劣等感を一生懸命カバーしてるんだな 」という冷ややかな目線で見てた(笑)。すいません

吉岡

野田さんらしい(笑)

野田

理屈をこねくり回して、一応、筋は通ってるけど、中身がないというか。別に好きでもないんだろうし、めちゃくちゃ詳しいってわけでもないんだろうし。さっきも言ったけど、表層的なパッケージだけつくって、それっぽい名前をつけて出してきたな、というのが正直な印象だったから。

そんなことをするんだったら、プロダクトをちゃんと磨いてお客さんに喜んでもらった方がいいでしょ、と。悲しいかな、そういうのって「 通ってきた人 」にしか作れないという部分が難しいところでもあり、面白いところなんだけど

吉岡

たしかに、D2C ブランドはプロダクトに個性があるように見えますが、そこまで特徴がある商品は少なかったように思います。たとえばアウェイのスーツケースもなんだか無印良品さんっぽいなっと思ってしまうし笑

編集部

その辺の考えは、吉岡さんも野田さんと同じ感じですか?

吉岡

ただ、僕の属性はカルチャーやファッションの人というよりも、ストーリーの人なんですよね。自分の思いを形にするのが好きで、もともとは映像作家になりたいと思っていましたから。だから、いつかは映画をつくるみたいな感覚で世の中に一石を投じたいと思っていたので、D2C ならそれができると感じました

編集部

ビジネスを通じて物語をつくれるということですか?

吉岡

そうです。ブランドで物語がつくれそうだなという感覚があって。カルチャーのブランドって、カルチャーによって先に物語がつくられた後に生まれるものだと思うんですけど、D2C は物語を起点にブランドを始めることができる。たとえば、こんなふうに世の中を変えていくんだといった、メッセージドリブンな試みができそうだなと思ったのが、正直なところです

編集部

当時の SNS やデジタルの仕組みに、メッセージやフィロソフィーを乗せられるという感覚ですかね

吉岡

そうですね。たとえばパタゴニアが、商品を買うことは地球環境への投票と一緒だというメッセージを発信して大きな注目を集めました。でも、彼らは本当に根っからの海好き、山好きの人間で、そういった人たちが「 地球を守る 」という信念でやっているからそうなるわけで。

その上っ面だけを見て「 うちもメッセージを出そう 」としても、本質は違うんですよね。そのことには後々気づくことになったんですが、当時はそういう物語を持ったブランドがつくれると信じていました

野田

そうそう、まさにだと思っていて。言ってることとやってることが一致してないと説得力ないというか。売るという行為をするのであれば、少なくてもお客様よりそのことに関する知識と経験がないとお金もらうのは悪なんじゃないかと思っていて。ファッション業界にずっといた人は若い頃から服好きだったわけで、自分よりダサい人が作った服、誰がほしい?、みたいな感覚あったんじゃないかな(笑)。

でも何事も功罪あると思っていて、それなりのものは簡単に作れる時代になっていたので、あとは見せ方をそれなりにすることは遅れてやってきたわけで、そこがこのブームで一気に進んだことは良いことなんじゃないかな

D2C の支援者として学んだ、D2C ブランドを成長させるために必要なビジネスの本質

編集部

ちなみに吉岡さん自身が D2C ブランドを立ち上げたのはいつ頃になるんですか?

吉岡

自分で D2C ブランドをやりたいという気持ちはずっとあったんですが、実際に自身で携わったのは、2019年にスマイルズさんと一緒に立ち上げた結婚指輪ブランドの「 iwaigami 」になります

野田

それまでの間は支援者としてクライアントのブランドに関わっていたわけですよね?

吉岡

そうです

野田

話せる範囲で構わないので、支援者として関わる中で得られた知見について教えてもらってもいいですか

吉岡

その当時の代表的な仕事には、サザビーリーグさんが手がけていた ARTIDA OUD ( アルティダウード ) というアクセサリーブランドへの支援などがあります。ブランド自体は 2018 年にスタートしたんですが、相談自体は 2016 年くらいから受けていました。

当時、力を注いでいたのは、店舗が主体のブランドに対して D2C がいかに本質的なビジネスモデルかを説明して、CRM ( カスタマー・リレーションシップ・マネジメント ) の概念を取り入れてもらうことです。今でこそ当たり前ですが、当時は LTV ( 顧客生涯価値 ) という概念がまだ言葉になっていなくて。

「 D2C はお客さんとダイレクトにつながって関係性を築けるから、1人のお客さんに何度も買ってもらうことが大事。新規のお客さんばかり見ていてはダメですよ 」という話をずっとしていました。たとえば、すでに購入してもらっている指輪にレイヤードで重ねづけする提案をしたりして、昔ながらの考え方をアップデートするお手伝いをしていた感じです

編集部

アルティダウードさんが上手くいった要因ってなんだったのですか?

吉岡

SNS の火のつけ方が上手くて、あれよあれよという間に成長していった感じです。当時、サザビーリーグさんのような世界観で売るブランドのインスタグラムでは、商品の価格を出すのがダサいと言われていたんです。でも、アルティダウードさんはあえて高級感のある素敵な商品ビジュアルとともに価格を載せて、きちんと商品ページのリンクを貼るということをやったんです

野田

当たり前のことに聞こえますけど、これをブランド内にしてやれるのはスゴいですよね。これ、よくいうんだけど「 カッコつけて売れない 」って、カッコつけてクラスの誰にも相手されていない状態と同じだと思ってて、それって一番ダサいんじゃないと(笑)。ファッションやっててダサいって絶対に避けなければいけないことじゃないすか、みたいな(笑)

吉岡

今でこそ当たり前ですけど(笑)、当時はまだ目新しい施策だったんです。高級感あるビジュアルを見せて、実際の価格が2〜3万円だったりすると、そのギャップにお客さんが反応してくれる。しかも SNS って小さい空間だから絵づくりもしやすいんですよね。素敵な写真に価格を載せて SNS 流して、確実に売っていくというシンプルなことを徹底してやっていました

野田

それ以外にも、D2C ブランドを成長させるうえで大事だと感じたことはありますか?

吉岡

やっぱり、D2C はお客さんとダイレクトにつながるビジネスモデルなので、結局のところ「 人 」が大事になるんですよね。アルティダウードさんもディレクターの存在感が圧倒的で。ブランドの人気とディレクターの人気がイコールになっている状態でした

野田

ディレクターが “ 前に出る ” というのは、意図的にやっていたのですか? それとも、特に意識していなくても、お客さんの方からそういった裏方の人を見つけにいく流れができたのですか?

吉岡

前者ですね。意図的に前に出てもらいました。インスタライブはやっていなかったですけど、ポップアップイベントに「 ディレクターに会いにきました 」というお客さんがそれなりの数来るくらいには「 人 」を起点にしたブランドづくりを心がけていました。

D2C で上手くいっているブランドって、結局ディレクターやプロデューサーの顔とキャラクターがブランドに直結しているケースが多くて。その代表格といえば、やっぱり、MARK STYLER ( マークスタイラー ) さんとかになると思いますが

野田

裏原でも109でもこの流れは同じですよね。D2C ならではの勝ち筋はあったのですか?

吉岡

ありますよ。たとえば、化粧品でいうと、N organic ( エヌオーガニック ) さんというサイバーエージェントグループのシロクという会社がやっているブランドがあるんですが、ここは、親会社であるサイバーエージェントの強みを活かして、SNS 広告や Web 検索 ( SEO ) を活用したデジタルマーケティングでお客さんをめちゃくちゃ刈り取るんです。それで、あっという間に100億円規模の会社にまで成長しましたね。BULK HOMME ( バルクオム ) さんなんかも同じ感じで伸びた企業だと思いますが

野田

D2C ブームで一番すごいのは、実はサティス製薬さんなんじゃないかという気すらする(笑)

吉岡

たしかに(笑)。あとは、北欧、暮らしの道具店も今では 90 億近くまで売り上げてますが、コンテンツマーケティングの手法で成功した事例ですね。

ただ、なんだかんだ言って、D2C で本当に成功しているのは、結局は大企業な気もしますけどね。ユニクロだってアプリを活用した D2C と言えば D2C だし、NIKE も一時期、自分たちで D2C 化するんだと言って取引先を絞り込んだりしていましたから

「 Less is Beauty 」という斬新なコンセプトで挑んだ SENN と、痛恨のアノニマス戦略

野田

続いて、吉岡さん自身が立ち上げた SENN ( セン ) というブランドについての話を聞かせてもらえますか。そもそも、スキンケアというドメインに行ったのはなぜですか?

吉岡

すごく変な話なんですが、「 Less is more ( 少ないことこそ豊かである ) 」というブランドをつくりたかったんですよ。ちょうど 40 歳になる手前の頃で、ピークを過ぎてこれからどんどん失うものが増えていく人生を肯定したくて「 少ないものこそ価値がある 」という人生観を自分のテーマにしていきたいと考えていて。

その考え方に合うドメインを探していたときに、先ほども少し話にあがったスキンケアの OEM を手がけるサティス製薬さんの社長と話す機会があったんです。そこで「 今の美容業界はオーバーケアで、逆に肌を悪くしてしまっているケースもある。肌にとって大切なのはバランスだから、今の世の中に必要なのはスキンケアを減らすことなんです 」という話を聞いて、「 これだ! 」と思いました

野田

「 Less is more 」が「 Less is Beauty 」になったわけですね

吉岡

そうです。化粧水、乳液、美容液、オイル、クリームと、今の美容業界はどんどん重ねてたくさん使わせようとしますよね。でも、それらをひとつにまとめたオールインワンのアイテムを高級路線で売っていくという逆張りのコンセプトなら、けっこういけるんじゃないかと思って「 Less is Beauty 」としました

編集部

本質的で良いコンセプトですね

吉岡

オールインワンのマーケットを調べてみると、すでに何十億と売れているブランドがすでに存在していて、それなりのマーケットサイズがあることがわかりました。コンセプト的にはニッチだけど、そんなに大きな売上を狙っていたわけではないので、自分たちなりの勝ち筋は見えているつもりでした

編集部

実際に立ち上げてみて、手応えはどうでしたか?

吉岡

最初の反応は良かったですよ。雑誌にも掲載してもらえたし、インフルエンサーの方が無償で紹介してくれたりして「 これはいける 」という感じはありました。ただ、立ち上げてみると、大きな壁に直面しました。

多くの方に素敵なブランドだねと褒めてもらうわりには、ファッション感覚で1回買って終わりみたいな買われ方をされていて、2回目、3回目の購入になかなかつながらなかった。中には、1年かけてチビチビ使ってますというお客さんもいましたから

野田

魅せ方の匙加減という問題ですね(笑)

吉岡

そうなんですよ(笑)。ブランドや商品を素敵に魅せてモノを売るって、1回目はパッとできても、継続して使い続けてもらうのに全然違う難しさがあることがわかりました。そこに直面したときに、資生堂や花王といった老舗メーカーのプロダクトの品質や、マーケティングの強さがひしひしとわかってきましたね。スキンケアってマインドシェアを取ってしまった会社が圧倒的に強いんですよ。傷を負ったらオロナインを塗るみたいな、そういう習慣は後から来た会社にはなかなか覆せない

野田

タイミングもありますよね?

吉岡

それも大きかったですね。2017、18年頃からやっていたら先行者メリットが大きかったと思うのですが、僕らが始めた 2020 年は、ちょうど D2C ブームがピークの時期で。株で言うと、高値掴みしてしまった感じです

野田

支援ばかりしてたら、タイミングを逃してしまったと(笑)

吉岡

本当に(苦笑)。D2C で成功している人たちが「 ギリギリ間に合った 」「 今だったら絶対勝ち目がない 」と口を揃えて言うくらい、早いもの勝ちのゲームでした。ステマが規制される前だったり、定期購入の解約縛りが当たり前だったり、なんでもありの時代に先行できた人たちは打ち手が多かった。もちろん、まともにやっていたブランドもたくさんあると思いますけど、なんでもありの時代の方が伸びるチャンスはいっぱいあったのは事実です

編集部

支援で身につけた表に出るというノウハウは、もちろん自社ブランドであるセンでもいかんなく発揮したんですよね?

吉岡

それがですね、出なかったんですよ(笑)。D2C ブームが盛り上がっていた頃で、僕自身が D2C を語る側の人間として露出していたこともあって、「 自分たちがブランドをつくりました 」と前に出るのはちょっとダサくない? という感覚があったんですよね。

しかも、VETEMENTS ( ヴェトモン ) とか ADERERROR ( アーダーエラー ) とか、正体不明でかっこいいブランドに影響を受けていたこともあって、アノニマスなブランドとして打ち出す戦略をとったんです

野田

「 人が前に出なきゃダメだ 」と実感してたのに(笑)

吉岡

そうなんですよ(笑)。自分たちとしては「 さらにその先へ行こう 」と思ってとった戦略だったのですが、結果として、世の中から存在を認知してもらう機会を失ってしまい、半年もしないうちに他のブランドにあっという間に追い抜かれてしまいました。結局、タイミングも悪かったし、自分が学んできたことを活かせなかったという、なんとも締まらない結果で(笑)

テクニックで売ろうとしたブランドは淘汰されたが、D2C がファッション EC に残した好影響も

編集部

先ほど 2020 年頃に D2C ブームがピークを迎えたという話がありましたが、そこから今に至るまでだいぶ落ち着いた印象があるのですが、その要因を教えてもらえますか?

吉岡

ひとつは、大企業が D2C 的なことをどんどんやってきたからだと思います。もともと D2C ブランドの強みって、大企業と比べて「 私たちはマーケティングコストも容器のデザインコストもかけていないから、その分を価格に還元できます 」という価格の合理性にあったわけですよね。でも、大企業側もそういう D2C 的なアプローチをやり始め、しかも彼らはもともと優れたプロダクトを持っているので、新興企業に勝ち目がなくなってしまったといいますか

編集部

YouTuber の土壌に、芸能人が参入して来た感覚というか

吉岡

そうですね。ただ、YouTube がエンタメのスタンダードになったように、D2C という言葉が出てこないくらいリテールの中で当たり前になったという言い方もできると思います。ですので衰退というよりは、目新しさがなくなり定番化されてきたというのが正しい表現かもしれないですね

編集部

大企業の参入以外にも何か要因はありましたか?

吉岡

デジタルマーケティングなどのテクニックから入る参入者が多かったので、肝心なプロダクトがおざなりになってしまい、結果として、お客さんの期待を裏切ってしまったのもひとつの要因だと思います。SNS 広告の使い方やビジュアルの作り方は立派なのに、届いた商品がそれに見合わないというケースが増えると、お客さんはすぐに離れていきます。

だから、今残っている D2C ブランドは、ファウンダーが自分の事業に使命を感じているところが多いと思います。たとえば、自分がお酒を大好きだからお酒のブランドをやっているとか、自分の偏愛とすごくマッチしている商品を扱っているとか

野田

素晴らしいですね。ブームと淘汰が済み、地に足がついてきたタイミングなんですね

吉岡

最初はビジネスとして入っても、5年も続けているとその業界に対して本当に詳しくなっていくんですよね。そうなると、ちゃんとモノづくりをしなきゃいけないということにみんな気づいていく

野田

D2C ブームを通過したことで、本物のブランドづくりに辿り着いた人が生き残ったわけですね

吉岡

そういうことだと思います。これからそういう人たちからいいモノがどんどん出てきてほしいですよね

編集部

その辺は D2C が EC 業界にもたらした良い影響と言えますね

吉岡

そうですね。D2C ってごまかしがきかないんですよ。ダイレクト・トゥ・コンシューマーなので、お客さんの声がダイレクトに聞こえてくるから、嘘は長続きしないし、中身のないブランドはすぐに見透かされてしまう。そういう意味で、D2C を経てちゃんとしたビジネスをやる人が増えてきたのは、ひとつの良い変化だったと思います

野田

ちなみに、D2C が当たり前にしたファッション EC の作法には、どんなことが挙げられますか? ファッション EC に関わる読者の方も多いので、その辺の話も聞ければと思いまして

吉岡

インスタライブなんかは D2C ブランドが先行してやっていた印象がありますね。お客さんとつながり続けるためのツールとして積極的に使っていた。あとはマーケティングのインハウス化も D2C が推し進めたことだと思います。マーケティングはあらゆるものがひとつになってインハウスであるべきという考え方が、この時代に D2C を通じて広まっていきました。

それから顧客インタビューやアンケートを定期的に実施するという習慣も、D2C ブランドが積極的にやっていたことで、今ではかなりスタンダードになってきましたね

野田

顧客インタビューって、アルティダウードさんでも実際にやっていたのですか?

吉岡

やっていましたよ。アルティダウードさんのようなブランドってあまりやらないことが多いんですが、3ヶ月に1回はアンケートを取っていましたし、ブランドのお客さん以外にもサザビーリーグさんのお客さんをお店に呼んでインタビューしていました。

それをやると、ブランドが狙っているターゲットと実際に買ってくれているお客さんがずれていることが見えてきたりするんですよ。アルティダウードさんも、ディレクターが想定していた理想のペルソナ像と実際の購買層がずれていたので、それをデータで示してディレクターに納得してもらうという作業をしていましたね

野田

ディレクターにとっては、自分の理想と実際の現実が違うことってなかなか受け入れ難い側面もあるけど、データとして示してもらえれば、腹落ちしやすいところはありますよね

吉岡

そうなんですよ。僕が「 こうすれば売れますよ 」「 ターゲットがずれていますよ 」と言うのではなく、顧客インタビューやアンケートのデータを通じて「 お客さん自身がこう言っていますよ 」と示すのが大事なんです

野田

支援者として言うべきことをアドバイスするのではなく、お客さんの声を借りてディレクターを動かすということですね

吉岡

まさにです。元々は店舗に行けばお客さんと会話ができるわけですから、その声を拾うというのは当たり前のことだったんですが、それをデジタルでもちゃんとやりましょうというのが、D2C がもたらしてくれたことのひとつだと思います

野田

顧客インタビューをするうえで、気をつけていたことや意識していたことはありますか?

吉岡

ヘンリー・フォードの「 馬車の時代に顧客はもっと速い馬が欲しいとしか言わない 」という有名な話がありますが、お客さんは「 答えを知らない 」ということを前提に持っておくことが大事だと思います。たとえば、お客さんにデザイン案を3つ見せて「 どれが好きですか? 」と人気投票を行い、その1番人気のデザインの商品をつくったとしてもまず売れないんですよ。

なぜなら、一般的なお客さんはデザインで冒険することは少なく、すでに自分が持っているような安牌なものを選びがちなので、その声をもとに商品をつくるとすごく無難なものになってしまう。逆に、好き嫌いの意見がきれいに分かれた商品の方が、それが響く人には響いて、結果として良かったといったこともありました

野田

あぁ、まさに。ブランドを知らない新規の方ってユーザーテストすると、その多くがバッグ、靴、ボーダー、無地など、比較的無難なものを選ぶことが多くて。これってすでに持っているモノに近いものが安心という、まだブランドを知らない場合の心理だと思うのですが、会員登録した後のメールや LINE でそういう安牌なものを集めたページへリンクしてもらうと購入率が上がるんですよねぇ

吉岡

本当にそうで、僕も昔はお客さんの言うとおりにしていたのですが、全然手応えがないことが続いて。だから、こっちがある程度仮説を持って聞かないと、インタビューをしてもあまり意味がないんです。

自分が立てた仮説が正しいかどうかを当てにいくというイメージですね。あとは、聞き方を変えるだけで反応が変わったりするので、その辺のよみも必要になります。お客さんとの対話から商品開発のインスピレーションを得るというのが、本来の顧客インタビューの意義だと思います

編集部

そういった姿勢は、D2C で生き残っているブランドの共通点にもなっていそうですね

吉岡

そうですね。それと先ほども少しお話ししましたが、D2C 支援で上手くいったのは、やっぱり「 この人 」という存在が決まっているブランドでした。ブランドと自分がイコールになっている人というか。

だから「 あなたはブランドをつくるべき人だ 」と思わせるくらい熱意がある人を見つけることがすごく大事。そういう人にブランドの中心人物になってもらうと、水を得た魚のように働きはじめ、こちら側から促さなくとも SNS やインスタライブで毎日情報発信しまくってくれるんです。むしろ、そういった熱意のある人からエッセンスをもらって、ブランドの世界観をつくった方がいいくらいなんです

編集部

COHINA ( コヒナ ) さんもそうなんですかね

吉岡

COHINA さんに関しては外から見ているだけなので詳しくないですが、彼女たちは、もうブランドの立ち上げ当初から毎日インスタライブを続けているみたいですよね。大晦日も元旦も。そうしたら、そこに物語が生まれて、お客さんがおひねり感覚で商品を買うみたいな、アイドルとファンのような関係性が生まれている。やっぱり、ダイレクト・トゥ・コンシューマーと言うだけあって、お客さんと毎日つながっている人が強いんだなということをあらためて感じさせてくれました

美味しい思いはまったくできなかった(笑)。それでも、また新しいブランドを立ち上げる理由

野田

今日、吉岡さんの話を聞いていて「 D2C ブームにうまく乗った人 」という印象が変わりました(笑)

吉岡

D2C ブームの当事者として登壇しまくって、記事なんかも書いてきたわりに、美味しい思いはまったくできなかったやつです(笑)

野田

センで表に出ない戦略をとったのも、ある意味その象徴的でしたね(笑)

吉岡

本当にそうで(笑)。アルティダウードさんの支援で「 人が前に出なきゃダメだ 」と学んでおきながら、自分のブランドでは正体不明戦略をとって、あっという間に追い抜かれてしまった。本当に笑い話ですよね

編集部

ただ、その経験を経て、この3月に新しいブランドを立ち上げたんですよね

野田

アノニマスですよね?

吉岡

いやいやいや、違います(笑)

野田

失礼。PERS ( パース ) でしたね。この前、蔦屋さんで買わせていただきました

編集部

こちらはどのようなブランドになるんですか?

吉岡

パースはペーパーフレグランスの商品を展開しているブランドです。「 絵を飾るように香りを飾る 」というイメージでプロダクトをデザインしており、現在は10種類の香りのバリエーションがあります。

このブランドのコンセプトは「 Light is here 」なのですが、前に立ち上げたセンの時が「 陰 」を意識していたので、今度は「 光 」を意識したというのが、お客様には届かない僕なりのストーリーです(笑)。

これまでのブランドではブランドとイコールになる人間は、ブランドをリードするディレクターだけで充分だと思っていましたが、パースに関してはメンバー全員がブランドとイコールになる人達で運営しています。

AI によってブランド運営の作業も効率化されましたので、立上げ時のマンパワーも 1/2 とか 1/3 でも足りるようになってきたので、それならば濃いメンバーだけで運営したいと思ってやっています。

その濃さのお陰か分かりませんが、3月の代官山蔦屋書店さんから始まって、全国のセレクトショップさんや、大手百貨店さんなど販売チャネルが徐々に広がってきております

 

野田

今度こそアノニマスにならないようにしてくださいよ(笑)

吉岡

それは肝に銘じています(笑)。D2C ブームに乗っかって、美味しい思いは全くできなかったけど、学んだことはたくさんあったので。今度はその経験をちゃんと活かしてやっていきたいと思っています

野田

楽しみにしています。本日はありがとうございました!

TAG

MORE